久敬会ミニ講演会(2)
演題:「低山の楽しみ ~近畿の山・沢をめぐる~」
講師:大阪府山岳連盟登山インストラクター 岡田敏昭氏(高38回)
日時:2013年11月24日(日)2時~4時
場所:久敬会館 参加者:27名
担当行事委員:辻本、田中、安田、中西(記録)
岡田氏は2013年10月に勤務先の異動により、住み慣れた奈良を離れ、東京に転勤されました。この度は、快諾していただいていた本講演会のため、ご多忙の中を帰阪し講演いただきました。
数多くの素晴らしい山のスライドを映写し、山歩きの楽しみを語っていただきました。救急手当てや仲間づくりの楽しみなどの話もあり、その後、持参いただいた山の道具についても説明して下さいました。また、著書「大阪の山」(山と渓谷社刊、岡田知子さんとの共著)を持ってこられ、希望者に分けていただきました。
当日は、奥様の岡田知子(旧姓奥田 高39回)様も出席され、茨高時代に山岳部の夏合宿で北アルプスの剣岳に、当時顧問の辻本先生と登ったことを懐かしく語られ、その時の計画書を見せてもらいました。現在は登山のインストラクターとして「のんびり山歩(さんぽ)の会」や「週末日帰り登山の会」を主催しておられ、案内のパンフをいただきました。
(講師プロフィール)
- 大阪府山岳連盟認定登山インストラクター、赤十字救急法救急員、山岳ライターシャープ山岳部長
- 著書:
- ・山と溪谷社 新・分県登山ガイド「大阪府の山」(共著)
- ・JTBパブリッシング るるぶ 大人の遠足BOOK『決定版 関西の山ベスト100』
- ・山と溪谷社 ヤマケイ関西BOOKS 「大峰・台高」
- ・山と溪谷社 決定版 日本二百名山登山ガイド[下] ほか
- 主な山歴: キリマンジャロ山(アフリカ大陸最高峰)、ケニア山、マッターホルン、キナバル山、ウィルヘルム山(パプアニューギニア最高峰)等
(講演内容)
文と写真はご講師からいただきました。
「低山の楽しみ ~近畿の山・沢をめぐる~」
大阪府山岳連盟登山インストラクター 岡田敏昭氏
【1】近畿地方の山、沢の魅力
■「安・近・短」の中に深山の魅力が凝縮
近畿地方の山は、標高こそ2,000mに満たないものの、休日の日帰りハイクから、エキスパートしか許されない深山幽谷までバラエティ豊かな山行ができる。しかも安価、近距離、短期間のいわゆる「安・近・短」の旅が可能なのが最大の魅力である。関東の山では、東京駅を起点に考えると、奥多摩にしても丹沢にしても、やはり移動に相応の時間がかかる。大阪を起点にすれば、六甲・北摂・生駒・金剛・京都北山・大峯・比良・大峯・台高・鈴鹿・丹波・湖北等、多くのエリアが日帰りから1~2泊でアプローチできる。
このように手軽な中に凝縮されている近畿地方の山の魅力の中から、私のオススメスポットをご紹介する。
・「易」から「難」まで揃った地勢
気軽に登れる低山で、頂上からの眺めがいいのは、近場では茨木・竜王山があるが、好きなのは丹波・虚空蔵山、播磨・高御座山など。
生駒山系・信貴山から望む南側は、二上山、大和葛城山、金剛山が一直線に並ぶ「山の惑星直列」が楽しめる(写真1)。
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展望の魅力は、なにも遠望することだけでない。大峯山脈・七曜岳から無双洞に向かう登山道から見上げる大普賢岳の迫力の稜線などは素晴らしい。山を歩くときは、足元だけを見て終わるのではなく、時に顔を上げて周囲の景色を見渡し、楽しんでほしい。
もう一つ申し上げるならば、どうせ行くならその山のベストシーズンを選びたい。台高山脈・三峰山の八丁平は、やはり厳冬期であるし、鈴鹿・竜ヶ岳は雪が消えた早春や秋がいいと思う。鈴鹿山系は、夏場は特に沢筋でヤマビルが多いだけに避けたい。
眺めて楽しいランドマークとしては、奇岩・巨岩のたぐいがある。鈴鹿・御在所岳中道にある地蔵岩、おばれ岩や、曽爾・屏風岩などは「眺めてよし」。和泉・槇尾山蔵岩、六甲・堡塁岩などは「登ってよし」、湖東・箕作山の太郎坊宮は「崇めてよし」だ。各地のユニークな岩だけをターゲットに登ってみるのもよい。
また、深山幽谷の最大の魅力は、滝ではないか。急峻な地形に富む近畿地方の山岳帯には、滝が非常に多い。滝めぐりのメリットは、山頂まで登らなくていいこと。しかし、足場が悪かったり、一般登山道がないなど沢登りの技術・装備が必要な場合も多い。
大峯・前鬼川の不動七重滝は、林道から滝見の遊歩道があり間近で爆流を見られる。前鬼川は沢登りとして遡行してもエメラルド色の流れが美しく、命が洗われるようだ。大台ケ原・西ノ滝(写真2)、中ノ滝、東ノ滝や、雨の直後にすごい迫力となる鈴鹿・東多古知谷の百間滝など印象的であるが、いずれも本格的な遡行・登攀の対象だ。
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・豊かな植生や、変化あふれる気象
南北に長い近畿地方では、春の花期、秋の紅葉期ともに、自分が南北に移動さえすれば比較的長い期間、その最盛期に立ち会える。うまくすれば桜でも2か月以上、毎週のように花見ができる。1年を通じ、オススメの植生スポットをご紹介する。
2月の梅は、生駒・枚岡梅林。3月中旬からは鈴鹿・藤原岳のフクジュソウ。桜は吉野もいいが、古刹等に植わっているものを手前に見ながら遠くに山並みを望むのが好きで、多武峰から竜門山塊を眺めたり、鹿谷寺跡から見上げる二上山などはフォトジェニック。
4月になるとカタクリ。大和葛城山や金剛山に植えられた群落は大事にしたい。春はこのほか、湖北・己高山のイワウチワ群落、高槻・金龍寺跡のシャガ、大和葛城山のヤマツツジ、大峯・釈迦ヶ岳のアケボノツツジ等、順番にさまざまな種が花期を迎え飽きさせない。
夏は大峯のオオヤマレンゲ、珍しいところでは和泉・犬鳴山でヒオウギ(写真3)を見た。沢登り中に気持ちが安らぐのはイワタバコ。
秋は木の葉の色づきを楽しもう。近畿地方では標高の高い場所などが早く10月上旬、都市部に近い里山では12月上旬が見ごろである。
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ポンポン山のついでに寄る高槻・本山寺や神峰山寺、和泉葛城山の帰りに通る大威徳寺、高安山から大阪側への下山時に通る「おおみち」ルートのカエデはオススメ。和泉葛城山山頂付近北面のブナ林(写真4)は貴重。もちろん大峯、台高のブナ、カエデ林はすばらしい。
貴重な巨樹として強烈に印象に残っているのは、入山許可が必要な、京都北山・井ノ口山付近の台杉。北山北部に多い、アシウスギの大木である。樹林全体のムードとしては、これも入山許可がいる西大台。最近行った、台高・コブシ峰も苔むした感じが古き良き大台ケ原の名残があってよい。
気象の力を借りた魅力では、何と言っても雪景色にかなうものはない。台高・高見山の霧氷はあまりにも有名。台高・明神平の早朝の光景は、神がかって見える。雪の時期だからこそ、山に出かけたい。
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・歴史と文化のランドマークに富む
近畿の山の魅力のその3は、歴史と文化に富むこと。中でも大峯山脈に代表される修験道は、別の山域にも各地にプチ修験コースがあり、ぜひ訪ねてほしい。
三重中部・飯福田寺の伊勢山上、滋賀・飯道山、和束・鷲峯山などがオススメ。いずれも危険な鎖場が続き、事故も起きている。慎重に。
ハイキングのついでに伝統文化や産業に触れることも魅力の一つ。和泉・東ノ灯明岳から和歌山側へ下りると四郷の里の吊るし柿が路肩に並ぶ。生駒・辻子谷では粉挽水車、京都南端の和束町の茶畑の美しさにも一票!
近畿地方には古い遺跡も多い。飛鳥時代の猿石が雨ざらしのまま鎮座する高取山、大阪・岩橋山に残る「久米の岩橋」など。和田山の竹田城址は、関西のマチャピチュとして有名だ。「天空の城ラピュタ」のような雰囲気がよい。湖北・菅山寺は無住となり荒れるがまま。
近代遺跡では、三重県青山の近鉄旧トンネル群は、青山高原ハイキングのついでに寄ろう。旧福知山線(生瀬~武田尾)の廃線跡(写真5)は自己責任で通り抜けられる。箕谷の北西、丹生山地には、帝釈鉱山跡があり、掘削した穴が各所に見られる。
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近畿の山を歩くといっても、これら幅広い魅力が、それこそ山のように存在する。ここでは話しきれない名所、秘密の場所もまだまだあるが、それはいつかどこかの機会で。
【2】より充実した登山を楽しむために
■登山は“頂点”がない、一生できる趣味
ヒマラヤ等の高所登山など冒険的要素の高い登山は別として、登山は、何歳になっても楽しめるスポーツである。とりわけ近畿地方の山々は標高も低く、紀伊半島を除きコンパクトな山域が多く、付き合い方しだいで、年を重ねても楽しめる。このように魅力が尽きない近畿地方の登山であるが、その奥の深さを「とことん」味わうには、それなりの条件を整えておくことも大切である。私は、その条件は「技術を磨く」「たくさんの仲間を得る」「さまざまなアクティビティを経験する」の3つと考えている。
・技術を磨こう
・技術を磨こう
まずは地図が読め、天気が読めることが基本。次に、山行の道中で出くわす危険な動植物と対処を憶えておくこと。小さいものではヤマビル、マダニ、スズメバチ。大きなものではクマ。植物ではウルシ、ヌルデ、カエンタケ…。
さらに、ケガやビバークに対する備えが大切。トラブル遭遇の際、セルフレスキューの心得があるかないかで心の余裕も生まれ、当然ながら事後処理の質がまったく異なってくる。テーピングや副木固定、ザック連結による簡易担架の作り方(写真6)、背負い搬送、懸垂下降等の技術をマスターし、ツェルト(簡易テント)を携行し万全を期したい。
これらの技術の習得に向けては、山岳会に
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所属して学ぶほか、大阪府山岳連盟のパーソナル会員として登録し、年に数回実施される講習会に参加するのが近道だ。
・たくさんの仲間を得よう
「単独行はイザというとき危険だから」という安全への配慮もあるが、パーティ登山には、仲間と同じ時間を共にし、感動を共有できるという、かけがえのない楽しみがある。自分の身の丈に合った仲間を、できるだけたくさん作りたい(写真7)。山で培った友情は、一生モノである。 |
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・さまざまなアクティビティを経験しよう
同じ登るなら、目標を持とう。ピークハントして登頂数を増やす、日本100名山を完登する、ガイドブックに記載の山を全部制覇する…。
また、単純なハイキングから一歩前進し、まずは野営を経験しよう。次に、岩場のトラバースなど難所への対応のためにも、適切な指導者のもとロッククライミングはかじっておきたい。クライミングに魅力を感じたら、次は沢登り(写真8)にチャレンジしよう。
積雪期をより楽しむためにはスノーシューやクロスカントリースキーの心得があればなおよい。登攀技術を活かした、ちょっとマニアックな世界ではケービングもある。
ぜひ、さまざまなアクティビティを体験し、自分に合った登山スタイルを見つけ出していただければ本望である。