久敬会ミニ講演会(4) 「食育のすすめ〜子どもを取り巻く食環境〜」

2014年03月31日(月)更新
久敬会ミニ講演会(4)
 
演題:「食育のすすめ〜子どもを取り巻く食環境〜」
講師:料理研究家 今田祐子氏(高36回)
日時:2014年2月2日(日)2時~4時
場所:久敬会館     参加者:19名
担当行事委員:辻本、田中、安田(記録)
 
 今田氏が実際に子どもたちに、包丁や火を使っての料理体験を指導している画像や参考資料プリントを示されわかりやすく、また興味深く説明されました。子どもたちが料理や食事に興味を持つこと、また工夫し協力しながら実際に料理をすることが、子どもたちの人間形成に大いに役立つことをお話ししていただきました。
 6才までの子どもには全ての行動は、繰り返しさせることにより、自然に生活力が養われる。しかし、たいていの親はそれを越えて「学力」を付けたがるのではないか。さらに家庭科の授業時間が減らされ、なかなか時間が無いから実技ができないのが現状である。
 料理は単純な作業の繰り返しでありながら、次の手順を考えながら作業する。あまりにも日常的であるがため、忘れられがちな「食事」の準備や段取りの大切さを改めて考えさせられた。
 今回の講演会は、女性講師とテーマの関係から、参加者は保育や幼児教育、児童教育に関わる方や将来その方面に進む大学生などほとんどが女性の方でした。講演の後は、机を移動して参加者がそれぞれ発言し、講師のコメントをいただく和やかな進行でした。
 
当日の写真)
 
(講師プロフィール)
  • 奈良女子大家政学部卒、辻調理師専門学校、クレヨンハウスなどの勤務を経て、マクロビオティック料理教室、未就園児のための料理教室など様々な料理教室に関わる。
  • 著書: 「アレルギーがあっても大丈夫―大好きなおうちのごはん」
 
(講演内容)
以下の文はご講師からいただきました。
 
子どもの自立と大人のありかた 食育から考える
料理研究家 今田祐子(高36回)
 
 子どもは乳児期から幼児期にかけて、自分で立ち、歩み、食べることができるようになります。学童期以降は自ら学んで経験を積み、やがて成人を迎えて社会人として「自立」するのが、人の本来の姿です。しかし最近、「子どもの自立が遅くなっている」という声があちこちから聞こえてきます。
 ここでは、その原因がどこにあるのかを皆さんと一緒に考え、「食育」を通じた解決法を提案してみたいと思います。
 
しつけの絶好機
 幼児期の4才前後は、随意筋運動の調整期と言われる時期です。随意筋とは自分の意志で動かせる筋肉のことで、腕の力こぶや腹筋などが該当します。この時期の幼児は、目的にかなった正しい動き方に強い興味を持ち、大人のやり方をまねることで、自分の意思で自分の筋肉を正しく動かす方法を学んでいきます。正しい振る舞い方や道具の扱い方を分かりやすく示すと、子どもはじっと見てから忠実に同じように取り組み始めます。日常生活の行動であっても、一つ一つを取り出してその動き方をわかりやすくゆっくりていねいに示してみせてやると、子どもたちは喜々として積極的に体得していきます。ですから、基本的な生活マナーや具体的な生活行動の教育をこの時期に行うと、自然に身につけさせることができます。とにかく親の振る舞いをじっと見て同じようにやろうとしますから、しつけの絶好機といえるでしょう。
 
子どもの活動サイクルと自立
「随意筋運動の調整」を行っているときの子どもの活動は、具体的には以下の4つの行動の繰り返しです。
やる・やらないを選択する
繰り返し作業してみる
集中して取り組む
完了することで満足感・充実感・達成感に浸る
作業を繰り返すことで動き方を習得すること、実はこれが一つの「自立」の形なのです。
滑り台での遊びを例にとってみましょう。
最初、親が抱いてすべると子どもは喜びます。何度か親と滑ると、今度はひとりでで滑ろうとして、滑り台のてっぺんに登ってみます。しかし、この時はじめて親と一緒では感じなかった「高さ」に気付いて怯えてしまい、葛藤が始まります。
そして、
怖い気持ちとの葛藤を克服して、滑り台のてっぺんから滑ることを決める
一度滑ることができると、何度も滑る
周りの遊具に気をとめず滑り台に集中し、寝転んで滑ったりして、工夫して楽しむ
自分の滑り方に満足するまで滑る
という経過をたどります。
 自分でやってみると、成功だけでなく失敗することもあります。失敗しないと痛みがわかりません。小さな失敗経験をつむことで、どのようにすれば成功するかを習得していくのです。これが自立の芽生えとなります。
 親は経験させることが大事だとわかっていても、世間体を気にしたり、親のペースと異なったりすると、子どもが作業の途中でも「もう時間がないから辞めよう」などと中断してしまいがちです。しかし、活動サイクルの途中で中断すると、子どもの「やる気」を妨げてしまいます。この積み重ねが、親が知らず知らずのうちに子どもの自立を妨げたり遅らせたりする原因だと思われます。
 親は、子どもの活動サイクルが完了するまで「見守る」ことが大切です。「見守る」というのは、サイクル途中で口を出さず、身体が傷つくような危険なことが起こりそうになった場合のみ手を貸すことです。滑り台の例では、子どもが落下しそうになった場合にのみ落ちないように手を貸し、あとは子どものするままにまかせることです。「完了」すると、子どもは満足感と充実感に溢れています。また、このときに褒められると子どもは自信を持ち、次の新たな活動サイクルへの意欲になります。
 自分で選択し、行動し、自分で責任がとれるようになることが「自立」です。幼児期は、まず生活行動が自立できるようになることが大切です。生活行動の中でも「食べること」は生活における基本中の基本です。小さいころから「食」に関する基本を身につけ、「食」について「自立」できると、子どもたちの成長に様々な面で好影響を与えます。
 
幼児期における調理体験
 近年、栄養の偏りや肥満などよる生活習慣病の増加が問題になっています。そこで、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人生を育むためには、食育の推進が重要であるとして、平成17年7月に「食育基本法」が施行されました。それ以来、学校や地域等で様々な「食育」(食に関する教育)が積極的に実施されています。食育は、「人が『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得して健全な食生活を実践することができるように育てることである」とされ、特に子どもたちに対する食育の重要性が強調されています。
 食育において調理体験はとても重要です。食物に直に触れ・調理し・食べるという体験は、「食」の選択とその知識の定着にたいへん有効な手段と言えます。では、いつから調理体験を行うのが適当なのでしょうか。早すぎるように思える幼児期に始めるのが実は効果的です。
 モンテッソーリ法という教育法の考案者であるモンテッソーリは、子どもがある能力を獲得するのに最適な時期を「敏感期」と名付けました。幼児期は、運動の敏感期・五感の敏感期・秩序の敏感期に当たります。運動の敏感期とは指先の細やかな動きの獲得時期を意味し、前項での随意筋の調整期に対応します。五感の敏感期は、視・聴・嗅・触・味覚の経験が発達する時期を、秩序の敏感期は同じ順番や位置にこだわる時期であることを意味します。つまり、幼児期は、人が運動・五感・秩序といった生活行動に置いて重要な能力を獲得するのに最適な時期であるということです。これらの能力のトレーニングには、調理体験が適しています。調理をするには、細やかな手指の動きを正確に行う必要があります。食材を視て触って、匂いを嗅いで選び、味わうことで五感について豊富な経験を積むことができます。調理は順番がとても大切で、食材を準備し、切り、炒め、できあがったら食卓に並べる、という一定の順序を守ることで完成します。このように子どもの発達段階を考えると、幼児期に調理体験をさせることは、食育という面からも生活行動教育という面からも大きな効果が期待できます。

幼児期に喜んで子どもが調理をするにはどのようにすればいいか
幼児期が調理体験に適するとはいっても、具体的にはどうすればいいのでしょうか。調理体験を先に述べた子どもの活動サイクルに当てはめながら考えてみましょう。
 
子どもに選択権を
  調理をするときはスタートが大事です。子どもに、出来上がりの写真や食材を見せて、やってみる?と聞いてあげましょう。全部準備をして、さあ、やりましょう、と誘うのでなく、準備前に本人にやる・やらないを選択させて、準備から一緒にやりましょう。せっかく用意しているのだから、といって無理強いさせることは次への意欲をなくします。
 
食材の量は少なめに
  子どもが全て1人で調理することが大切です。大人と同じようにキャベツを一玉与えても、子どもの力で切るには時間がかかります。時間がかかりすぎると、途中で飽きてしまい辞めてしまう可能性があります。子どもが自分で切って、満足できる量を見極め与えることが大切です。
 
ペースを大切に
  大人がゆっくりとやって見せて、子どもに作業をさせます。子どものペースで作業を行っている間は黙って見守ります。急かすと中断したりやる気を失わせたりする原因となります。
 
おいしく食べる
  完成したものを食べることで満足感を得ます。身体で満足を得ることで、また食べたい、調理してみたいという次への意欲が生まれます。
 
 幼児期に、調理のようなさまざまな生活活動を自分でえらび、選んだものを自分のリズムで続け、集中してやり遂げる経験を幾重にも積み重ねることで生活力が培われ、生涯学び続ける「自ら学ぶ力」も身に付いていきます。「自ら学ぶ力」が身に付いていると、学童期になってから、学校などの学習の場で、先生の話を聞き、自ら学び取る力が発揮されます。そして学生が終わる頃には生活力に学習力が備わった形で、社会に羽ばたいていきます。生活力と学習力がバランスよく備わると、社会で仕事をするときの仕事力となります。
 しかし、生活力と学習力のバランスがくずれていると、社会に出ることができない、出ても社会に順応できません。近年、学習力ばかりが注目され、幼児期に早期教育を推進するあまり、本来人間が生きて行く上で必要な生活力を幼児期に身につけられない傾向が見られます。
 大人である私たちは,子どもの幼児期における生活行動の自立が、その後の人間としての生き方を左右する大切なものであることを認識し、子どもとの関わりに関心を払うべきではないでしょうか。食育は、そのような自立を育む上で効果的な手段であると思います。
 
参考:
書籍 幼児には2度チャンスがある 相良敦子著 講談社
活動 台所から子どもの自立をつくる『こどもキッチン』の教室
    http://blog.kodomo-kitchen.com/


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